圧倒的顧客基盤をベースにした、
豊富な情報量と
ネットワークを強みに。
現在、投資銀行部門の中でどのような業務を担当しているのですか?
都築: みずほ証券のグローバル投資銀行部門は、「カバレッジ」と実際に専門性の高いソリューションを提供する「プロダクツ」で構成されています。M&A(買収や合併)の実行やECM(エクイティ・キャピタル・マーケット=株式による資金調達)・DCM(デッド・キャピタル・マーケット=債券による資金調達)などによる資金調達等を担うのがプロダクツであり、私が属しているのはカバレッジです。投資銀行業務の中でカバレッジは、いわゆる営業職に当たるもので、日常的にお客さまにアプローチし、その中でM&Aや資金調達等の課題、ニーズを探っていきます。具体的なニーズをキャッチした後はプロダクツ担当と連携し、特定案件の提案等を進めていきます。お客さまの総合窓口であり、みずほ証券では企業の業種ごとに担当が分かれていますが、私はフィナンシャルスポンサー部の部長として、商社やノンバンク、プライベートエクイティファンド、そしてデジタルイノベーションチームのヘッドとしてスタートアップのお客さまを担当しています。
みずほ証券の投資銀行部門の強みは何でしょうか?
都築: 〈みずほ〉は、銀・信・証一体戦略によるワンストップの高度なサービス提供力を発揮することで、これまで幅広い強固な顧客基盤を築いてきました。この顧客基盤の強さは圧倒的であり、金融グループの中でも群を抜いていると思います。この顧客基盤をベースにしたネットワークと情報量が、当社の最大の強みの一つであり、そのメリットを最も享受しているのが投資銀行部門、特にM&Aビジネスです。M&Aアドバイザリーランキングにおいて常にトップクラスに位置していることが、そのことを証明しています。また案件数が多いということは若手でも案件に取り組める機会が豊富であることを意味しており、若いうちから実践を通した経験の中で投資銀行に必要な知識・専門性を身に付けることが可能であり成長できる環境です。
みずほ証券の投資銀行部門の強みを活かした案件を教えてください。
都築: 最近の例で言えば、ある大手事業会社のカーブアウト案件があります。カーブアウトとは会社分割の手法の一つで、自社の事業の一部を切り出して新会社として独立させることです。お客さまは、経営資源集中を目的に一部事業を投資ファンドに売却するという1,000億円を超える規模の大型案件でした。当社は買収側の投資ファンドのアドバイザーとして参加し、交渉を進めました。実際の案件はプロダクツ担当が担いましたが、私はプロデューサーという立場で全体をまとめていく役割。買収側ですから、いかに安く買うか、あるいは将来見通しとしてExit(株式公開や株式売却で利益を得ること)を想定したリターンも考慮しつつ案件を進めました。交渉の結果合意形成に至りましたが、このようなボリュームの大きなM&Aを遂行できたのは、豊富な情報量とネットワークをベースに、実績に裏付けられた当社のセクターカバレッジやアドバイザリー部隊への信頼があったからだと思っています。
お客さまに価値を提供するのがプロ。
そのために人の心を動かす、そして感動を生む。
プロフェッショナルとはどのようなものとお考えでしょうか?
都築: 金融機関のプロフェッショナルと聞くと、どうしても定量的なイメージになりがちです。たとえば、社債発行による資金調達において、お客さまが望むいい条件を実現したことで、「金融のプロ」と評価される場合もあるでしょう。もちろん、それもプロの要素の一つであることは確かですが、私の考えるプロフェッショナルは少し異なります。テクニカルな金融手法を駆使して案件を遂行するのは、お客さまに何らかの「価値」を提供するためです。したがって、価値を提供することこそがプロフェッショナルと考えます。たとえば、世の中の動きを自分なりの視点を持って咀嚼し、社会に役立つ、必要とされているビジネス・企業を支援する。そうしたビジネス・企業はサステナブルであり投資も活発になり、ひいてはそれが社会貢献につながっていきます。それを可能とするのは、案件の後にお客さまが何をするのかを徹底して考えているからにほかなりません。資金調達でもM&Aでも、そうしたアクションを起こすには理由・背景があります。それを見極めて支援していくことで「価値」が生まれると思っています。だから、いい案件には感動があり、関わった人に喜びをもたらします。その案件が社会のためになっていくという確信があるからです。突き詰めて言えば、価値を生み出すために人の心を動かすことができる人が「プロ」と言えるのではないでしょうか。
そうしたお考えで、具体的にはどのような価値を提供しているのでしょうか?
都築: 私が今、仕事の原動力としているテーマが「事業承継」と「スタートアップ支援」です。「事業承継」は会社の経営権や資産を後継者へと引き継ぐことですが、現在、経営者の高齢化、さらに後継者不在という問題を抱えた企業は少なくありません。プライベートエクイティファンドの機能を活用し、資金、経営者の確保、あるいは追加的なM&Aなど多彩な手法で事業存続の取り組みを進めています。「スタートアップ」は一般的には起業の立ち上げを意味しますが、特にデジタルイノベーションなど、革新的なアイデアで急成長する企業を指します。資金不足を課題としている企業も少なくなく、株式発行による資金調達、IPO(株式公開)、M&Aを含めた支援を行っています。事業承継は高齢者問題に関わることであり、スタートアップ支援は若者の起業家精神を応援することです。これらは金融機関としても取り組まなければならないテーマと考えており、円滑な事業承継、そしてスタートアップの成長は、日本社会・経済の活性化に資するものです。果たして自分はどんな役割を担えるのか、それを模索する中で最適解を導き出していきたいと思っています。
人間力が生み出す「営業力」という専門性。
自分の意見を発信せよ、主体的であれ。
プロフェッショナルにおける専門性についてお考えをお聞かせください。
都築: 先ほども指摘しましたが、ECM・DCMによる資金調達、M&A、IPO、ストラクチャードファイナンスなどプロダクトごとに、高い専門性は求められますし、それは「金融のプロ」の一面だと思います。私の配下の若いメンバーもそうした専門的なスキルを身に付けたいという思いが強い人が多いのは確かですし、それら専門スキルは価値があるものです。でも、たとえば工場を稼働させるための知識を持っていても、作るモノがなければ意味がないことと同じように、投資銀行は案件獲得、オリジネーションがなければ始まらない。知識も大事ですが、「商売を取りに」行かなければ、何も始まらないのです。そして商売を取りに行くのが、我々カバレッジ担当の役割です。私が言いたいのは、「商売を取る」ための営業力も専門性の一つであるということです。営業力は定性的なものですから、専門性として語られることは少ないですが、営業力によって人と人との関係を構築する作業は、ビジネスにおいて絶対に避けては通ることができないものです。では、営業力とは何か。それは、確かな人間性に裏付けられた「人間力」だと思っています。人間力も定性的なものですが、経験を積む中で日常的に自分を磨いていくしかない。金融実務の経験だけでなく、視野を広げ、主体的に動き続けることで、人間力も養われると考えています。
部下の育成という観点において、とくに重視されていることはありますか。
都築: 現在、私には20人程度の部下がいますが、彼らをプロフェショナルに育てることが自分の役割の一つだと思っています。そのため第一に伝えていることは、まずは自分自身の意見を持って欲しいということ。最近はコロナ禍でWeb会議が中心となっていますが、部内での全体会議のファシリテーターも部下に任せ、部長である自分は主体にならないようにしています。やりたいことを言い合ってみんなで共有するために、自分の考えを持って発信することこそが大事です。「自分がどうしたいか」。一人ひとりが主体的に動くこと、その結果としてチームは一歩一歩前に進んでいきます。その過程で新しいチャレンジも生まれ、責任感も強くなっていく。主体的であり続けることは、仕事のプロフェッショナルに成長することに加え、いついかなる環境でも逞しく生き抜く力を身に付けることにつながっていきます。上司としては、若い人が自由闊達に意見を発信できる風通しのいい環境を作ることが使命であると考えています。
取材後記 No.01|Kenichi Tsuzuki
一貫して投資銀行業務畑を歩み続け、その過程で米国留学、ロンドンへの赴任も経験した。そのキャリアは一見すると華やかだが、本人は「幾多の修羅場を経験してきた。その後に成長を感じた」と言う。今、都築の視線の先にあるのは、案件単体ではない。日本という社会そのものである。社会の役に立つため、みずほ証券は、投資銀行部門は、そして自分は何ができるのか。それを追求していくことこそ、都築のプロフェッショナリズムである。